2010.02.05

おすすめ資料 第106回 希望の旅をするひと

  • 星野道夫著『星野道夫著作集』新潮社 2003 [N295.3-94-1~5] (1) (2) (3) (4) (5)
  • 星野道夫著『星野道夫の仕事』朝日新聞社 1998-1999 [N748-13-1~4] (1) (2) (3) (4)

このひとの仕事はこれからも静かな熱狂を持って深く広く様々な人々に影響を与えながら伝えられていくのだろうなと思います。

星野道夫-写真家、冒険家そして文筆家で、そのどれもが主従の関係ではなく有機的に一体となって結晶し、きらきらと輝くそれでいてどこか暖かい作品を創り出すことによって周りの人に希望を抱かせてくれる稀有な存在でした。

彼が遺した写真を観ながら著作集にまとめられた文章を読んでいると、星野さんの決して難解ではない基本的な考え方の道筋をたどることによって、いつの間にか未来に向かってのポジティヴな思いをもっている自分が、今ここという限られた時空から解放されて思いがけず広がった心地よい別の次元で開放感に浸っていたりするのです。

「トーテムポール」や「ポトラッチ」といった「文化人類学」の「ガクジュツヨーゴ」を、生きた暮らしのなかで血の通ったものにしてくれた星野さんは、アカデミズムが客観的な対象として理解し解釈しようとする「世界」を、アマチュアにも分かるかたちに直に変換してしまう術をもたされてしまったひとでもありました。

たしかに「彼の死を、彼に成り代わって勝手に嘆いてはいけない」そんな資格は僕たちにはありはしないと思いながらも、星野さんがいつになく強い調子でいった「ぼくたちの神話をつくらなければならないとき」がもう既に来ているのかもしれない今、その創造にほかの誰よりも関わるべきひとがもういないということは地球にとって不幸なことだと思われてなりません。

2010年2月5日(牛)