2011.03.04

おすすめ資料 第121回 本を愛する人へ

「電子書籍元年」とさわがれた2010年。

この本は、単純に「本の絶滅」を危惧し、それを阻止しようとするものではありません。また、あらゆる点で巷の電子書籍関連本とは一線を画すといっていいでしょう。

対談者のウンベルト・エーコはイタリアの中世学者、哲学者、小説家。『薔薇の名前』で有名。クロード・カリエールはフランスの劇作家、脚本家。『ブリキの太鼓』の脚本などでご存知のかたも多いはずです。

世界でも屈指の愛書家の二人は、底なしの博学でもあります。彼らは、本書の邦題とはうらはらに、書物の未来を案じてはいません。紙の書物はすでに完成された発明品であり、絶滅するはずのないものとの確信をもって対話にのぞんでいます。いわゆる紙の書物が培ってきた文化が、声をあげて、自由に語り合っているような錯覚を覚える本です。といっても、電子書籍やインターネットの世界に無関心、無知でいるわけではありません。今後、変貌をとげるであろう「文化」のありよう、意味を問い直す内容になっています。特に情報のフィルタリングに関する話題は、示唆に富んだものです。

ここで、あまりの格調の高さに怖気づいてはいけません。意外にすらすら読めるのです。もし、本への愛があり、声高に語られる「電子書籍元年」にいいようのない不安を覚えるなら、おすすめの一冊です。

2011年3月4日(長)