2007.06.01

おすすめ資料 第27回入門書を馬鹿にしていませんか?

山村修著 『〈狐〉が選んだ入門書』(ちくま新書607) 筑摩書房 [N081-23-607]

連綿と続いてきた本の世界の住人になるための最初の一冊をどうして見つけるかについて丸谷才一氏は「うんと感心した書評があったら、読んでみる」そして「その書評を書いた人の本を読んでみる」ことが大事だと言っています(『思考のレッスン』[N914.6-228])。

「ひいき筋の書評家」といえば昨年惜しまれながら亡くなった「狐」、山村修氏のことを思い出す方も多いのではないでしょうか。その山村氏の生前最後の本となった『<狐>が選んだ入門書』は、単なる手引書ではなく「究極の読み物」として「その本そのものに、すでに一つの文章世界が自律的に開かれている」「それ自体、一個の作品である」ようなすぐれた入門書を5章にわたって25冊紹介したものです。この本自体が山村氏の言う究極の読み物といえるので、この箇所も、あの箇所もと引用したい誘惑に抗しがたいのですが、その愉しみは皆さんにお譲りすることにして、もう一冊、残念なことに彼の逝去後の出版となってしまった『花のほかには松ばかり』[N912.3-6]をご紹介します。

能楽や謡曲についての「手引書」は数多く出版されていますが、山村氏のこの本は、観るときの補助としての謡曲が「読む」という行為をとおすことによって、どんなに豊穣な世界をわたしたちに広げて見せてくれるかを教えてくれるすぐれた「入門書」です。

「専門書」を読みすぎて倦んだ頭脳を、27冊の入門書たちの広く深い華麗な世界を味わうことによって活性化していただけたらと思います。

なお、書評家としての「狐」については、『書評家 <狐> の読書遺産』[N019-111]についての若島正の書評「共感のさざなみ、かきたてられて」(『毎日新聞』今週の本棚2007年2月25日)を是非お読みください。

2007年6月1日(牛)