2007.06.15

おすすめ資料 第29回日本人の心性を解く

土居健郎著 『「甘え」の構造』 弘文堂 [N146-47]

1971年出版され、幾度か加筆されつつ、欧米・アジアでも翻訳書の出たロングセラーです。例示として扱われている社会事象は当時のものですが、作者の主張は現在も生きています。

作者は「甘え」を日本人の特性として捉えますがネガティブな面ばかりに目を向けているわけではありません。アメリカでは客人を招くとき、ドリンクの種類・その量まで相手に選択の意思確認をします。一方、日本では最初から客人の好みに合いそうなものを用意します。それはホストに対する客人の甘えにも通じますが、そういった習慣は日本人の、相手の心中を察する想像力を発達させ、和の文化を成熟させてきました。アメリカ流のやり方も彼らにとってはそれが丁重なもてなしです。それは文化の違いです。

反面、戦後の甘えのゆき過ぎは個人の確立を妨げ、甘えが許される身内には依存し、外の世界に対しては臆病・もしくは冷淡になるという歪みももたらしました。

日本人の多くは知らず知らずのうちに「甘え」に根ざした行動をとっています。依存はわかりやすい例ですが、一方的に相手に期待してそれが思い通りにならなかったとき、すねたり、逆に相手に取り入ろうとするのも日本人特有の行動です。作者はそれは日本の外交姿勢にも現れており、同じアジアでも中国にはそれがないと分析しています。

日本人という自分を深い部分で客観的に顧みる一助になる資料です。

2007年6月15日(梶)