2007.08.10

おすすめ資料 第37回思いっきり泣いて、怒ってみませんか

ジュリアス・レスター著金利光訳 『私が売られた日』あすなろ書房 [N933.9-666]

1859年、アメリカ南東部ジョージア州サバナで、アメリカ史上最大といわれる奴隷市が開かれました。南北戦争が始まる2年ほど前の出来事です。 429名もの黒人奴隷が商品として競りにかけられました。『私が売られた日』は、この史実を土台にして書かれた戯曲形式のお話です。

主人公のエマは当時、「たぶん12歳くらい」の黒人奴隷です。エマとエマの両親は、農園主バトラー氏につかえています。エマの仕事は、バトラー氏の幼い娘たちの世話でした。上の娘のサラは、エマによくなついて母親代わりに慕っていました。それなのに、奴隷市の最終日、何の心の準備もないサラを引き離し、バトラー氏は突然エマを売ってしまいます。

奴隷制支持者の台詞から、人種差別とはどのようなことか、伝わってきます。売られる奴隷たちにも、売り買いする白人たちと同じように感情があり、知性があるのに、そのことを否定するのです。否定され続けた奴隷たちのなかにも、白人に従っていれば生きられると、怒りの感情を捨ててしまったものがいました。自由も尊厳も求めない姿には悲しみがにじみます。

一方で、奴隷制度に反対し、解放に力を尽くした人たちもいました。逃亡奴隷を助けてカナダへと逃がす「地下鉄道」の車掌には黒人も白人もいたと、後に年老いたエマが語ります。エマは売られた後、いったん奴隷制のない北部へ逃げ、さらにカナダへと自由を求めて逃げ延びたのです。

援助してくれる人がいなければ、遠いカナダまではとてもたどり着けなかったと、エマは孫娘に語ります。エマは売られてもなお、人としての尊厳を失いませんでした。すべての白人を敵とは考えず、いい人もそうでない人もいた、と回想します。可愛がっていたサラのことも、決して忘れませんでした。

奴隷制という差別制度について歴史として学んだことはあっても、本書のように、差別社会に身をおく人々の感情に迫った作品に触れる機会は多くないのではないでしょうか。本書を読み、尊厳を無視された人々の怒りと悲しみを感じ取って、思いっきり、泣いたり怒ったりしてください。

2007年8月10日(永)