2008.07.04

おすすめ資料 第68回 「韻文小説」を読む

韻文と聞くと、普通「詩」「ポエム」を想像しますが、韻文小説というのはあまり聞き慣れないかもしれません。これは、文字通り「韻文の形式で書かれた小説(роман в стихах)」を指します。文学のジャンルの中に韻文小説というものが明確に確立されているとは言い難いようなのですが、これはなかなか「スゴイ」ジャンルです。きれいに韻を踏んだ表現が延々と連なって1本の長編小説となっているのですから。

その代表作品が『 エヴゲーニィ・オネーギン(Евгений Онегин)』(1823-31)。作者はロシア文学の父と呼ばれるアレクサンドル・プーシキン(1799-1837)です。独特な文体をもつ韻文を、しかも外国語で読むのは難しいでしょう。でも、あえてこれをお勧めしたいのは、意外とわかりやすいロシア語で書かれており、恋愛が主なテーマとなっていて親しみやすいからです。

ロシア文学は「重い」「暗い」「名前が長い」と敬遠されやすい傾向がありますが、プーシキンの描く明るい雰囲気に触れると、ロシア文学の違う一面を見ることができるでしょう。(『オネーギン』自体は、コメディでもハッピーエンドでもないのですが、それでも!)簡単にあらすじを紹介すると、ニヒルでダンディなオネーギンに田舎娘のタチヤーナが一目惚れをします。タチヤーナは彼に情熱的なラブレターを送るけれど、オネーギンは相手にしません。その後、すったもんだがありオネーギンは放浪の旅に出ることに。月日は流れて、タチヤーナは公爵夫人となり社交界でももてはやされる存在になります。そんな彼女に再会したオネーギンは今度は自ら彼女に愛の告白をします。その結果、・・・は読んでのお楽しみ。

ロシア語にいきなり挑戦するもよし、翻訳がいくつも刊行されているので、並べて読み進めるもよし。上記の他に文学全集の中にも収められています。例えば、金子幸彦訳が収められている筑摩世界文学大系30巻『プーシキン ; ツルゲーネフ』筑摩書房[N908-2-30]や木村浩訳が収められている世界文学全集23巻『オネーギン他』集英社[N908-9-23]など。翻訳を読み比べるのも楽しいし、翻訳と原文を付き合わせて、ロシア語の詩の世界を味わうのもよいでしょう。翻訳の中で注目に値するのが、3)小澤政雄訳『完訳エヴゲーニイ・オネーギン』です。他の翻訳は散文の形式をとっているのですが、小澤訳のものは詩の形式を保持しています。どちらが読みやすいかは好みによるかと思いますが・・・。

なお、「ちょっと読んでみようかなぁ、(本を開いてみて)・・・読みにくいじゃん」という方には『オネーギンの恋文』(1999年イギリス)[VEMO-181]という映画をお薦めします。視聴覚ライブラリー(共同研究棟2階)で見ることができます。もちろん『エヴゲーニィ・オネーギン』を題材に撮影された映画です。「ロシアっぽさ」に欠ける嫌いがありますが、ストーリーを味わうことはできるでしょう。

2008年7月4日(則)