2008.08.15

おすすめ資料 第71回 「花」を求めて古文を読む

林望著『すらすら読める風姿花伝』講談社 [N773-19]

作家の林望氏の手になる、『風姿花伝』の入門書です。書名に「すらすら読める」とあるとおり、自分で古文を「読む」ことを目的とし、本文には大きめの活字を用い、旧仮名遣いや漢字にはルビを振っています。

一般的には、能楽の大家である世阿弥の芸能論と言われていますが、教育論として読むこともできます。たとえば「年来稽古条々」では7歳から始め、12歳頃、17歳頃、24歳頃、34歳頃、44歳頃、50歳過ぎ、の7段階を追って、その年頃にふさわしい稽古の有りようや望まれる到達度について述べます。「時分の花」と「まことの花」の違いを強調しますが、その年齢に備わった長所である「時分の花」も否定しません。

観衆を舞台に集中させるためのコツにも触れています。観衆の様子によって演じ方に少し変化をつけるのです。それだけでなく、卓越した為手(シテ、能の主役を演じる)は、観衆の好みに沿って「花」を使い分けることもできると言っています。「一年中の花の種をもちたらんがごとし」、季節や場所、観衆に合わせて演じ方を変えられるのが、プロだということのようです。

世阿弥ほどの境地に達することは難しいとしても、私たちなりの「花」を求めてみるのも一興ではないでしょうか。

2008年8月15日(永)