2008.11.21

おすすめ資料 第77回外国語で読む『源氏物語』 その4 中国語

紫式部著豊子ガイ訳『源氏物語』上中下人民文学出版社 [N913.3-33-1~3] (ガイはりっしんべんに「豈」)

この本は『源氏物語』の現代中国語訳です。第1帖「桐壷」から第54帖「夢浮橋」までが、上中下全3巻に翻訳されています。この訳本の興味深いところは、和歌と巻名の訳し方と言えます。

和歌は、原文の意味を表現した上で、韻を踏んだ漢詩に訳されています。訳すときに意味と音の両方をうまく生かすのは非常に難しく、翻訳者である豊子ガイ(りっしんべんに「豈」)の高い詩才が伺えます。

巻名は、多くが直訳となっていますが、例えば第9帖「葵」を"葵姫"、第42帖「匂兵部卿」を"匂皇子"とするなど、読者である中国人が理解しやすいように工夫がされています。

また、第41帖「幻」の巻名ですが、"魔法使"という、一見不思議な中国語訳がつけられています(参照:下表※)。この「幻」は、「光源氏」が亡き「紫の上」を思いながら時を過ごし、最後に亡くなる場面ですが、なぜ「幻」が"魔法使"になるの?...、と思ってしまいませんか?

実は、古語の「まぼろし」は、現代語と同じ「幻影」以外に「仙術を使う道士」も意味しますので、こちらも直訳となっています。ちなみに、「幻」という巻名は、「光源氏」が第41帖「幻」のなかで詠んだ「大空をかよふまぼろし夢にだに見えぬ魂の行く方たづねよ」という和歌からとられています。

直訳でない巻名の一覧
巻名(原文) 巻名(中国語訳)
5 若紫 紫児
9 葵姫
10 賢木 楊桐
14 澪標 航標
17 絵合 賽画
20 朝顔 槿姫
23 初音 早鴬
28 野分 朔風
30 藤袴 蘭草
33 藤裏葉 藤花末葉
40 御法 法事
41※ 魔法使
42 匂兵部卿 匂皇子
46 椎本 柯根
49 宿木 寄生
53 手習 習字

2008年11月21日(柿)