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2020年4月 1日

新型コロナウイルス感染症に関する学長からのメッセージ

 今、全世界が新型コロナウィルスによって混乱しています。社会や経済への影響の大きさを考えると、末永く記憶される歴史的な事象であることは間違いありません。本学も、卒業式や入学式を通常のように挙行できず、学生のみなさんの留学にも深刻な影響が出ています。それどころか、新学期が平常通り始められない状態になっています。

 もっとも、病気によって社会が混乱するのは、今回が初めてではありません。これまでも人類は、ペストやコレラ、インフルエンザといった病気の世界的な流行に何度も悩まされてきました。それらの病気によって社会が大きく変わり、歴史が動くこともありました。

 病気という目に見えない脅威は、人々を不安にし、その不安に何らかの説明を求めようとします。この不幸の原因は自らにあるとして、病を神から下された懲罰と考えることもありました。その反対に、自分は何も悪くないのに、病気が迫ってくることは理不尽であると考え、他人に原因を求めることもありました。そのため、パニックに陥った人々が、悪魔や魔女といった邪悪な存在によって脅威が引き起こされているのだと思い込み、何の罪もない弱者を魔女とみなして処刑する、といった不幸な出来事もありました。また、社会で疎外されている人々--宗教的マイノリティや抑圧されている少数民族など--が病気の原因をもたらしたのだ、といった「陰謀説」にとらわれて、迫害するといった例も数多くあります。

 遠い歴史の話ばかりではありません。身近な例では、2009年に新型インフルエンザの流行があった際に、流行が始まった神戸・大阪の高校生、というだけで偏見の目を向けられるということがありました。不安のあまり、理性的な対応ができなくなってしまうのです。

 社会不安の際には、不正確な情報や不安をいっそう煽るようなデマが広がりやすいということも歴史が示しています。今回も、そういった根拠のない情報やまことしやかな「陰謀説」などがインターネットに乗って、世界規模で拡散しています。

 不安は疑心暗鬼を生み、さらに不安を煽ることになりがちです。事実とデマでは、デマの方が広がりやすい、という研究もあるようです。かつての魔女迫害のように、他者を悪者に仕立てることで安心するのかもしれません。しかし、それは本当の安心ではありません。ただ、目の前の状況を認めたくないと、目をそむけているだけです。不安に立ちすくんでしまうのではなく、錯綜する情報を精査し、しっかり正しい判断をできるかどうかが大切です。

 誤った対応に陥ってしまったことを反省することで、人は賢くなり、前の経験を活かして適切な対応をするようになってきました。今回も、間違った情報への注意喚起もすぐに発信されています。みなさんも、ウィルスの流行を正しく受け止め、知性の目で見るようにしてください。

 今回の混乱からは、世界がひとつにつながっていて、人的にも経済的にも相互依存している様子も見えてきます。その一方で、いまだに様々な偏見や差別が根強く残っている状況も明らかになっています。平穏なときには見えにくかった社会の矛盾もくっきりと浮かび上がってきています。

 大学で学ぶみなさんは、今回の状況をただ嘆くだけではなく、これまでの学修によって身につけた多くの知識と学問的に体系立てて考える思考力をフルに活用してこの状況に向き合って欲しいと思います。今回の病気の流行が、歴史の中でくり返されてきた事象のひとつであるとするなら、いつか、また別の「想定外の」出来事に遭遇することになるでしょう。そのとき、今回の経験が活かされて、より適切な対応ができるに違いありません。

2020年4月1日

学長   指 昭博