2010.06.04

おすすめ資料 第112回 読者と本の出会いを結ぶもの

本を選ぶときの決め手は何ですか?
お目当ての本がある場合は別として、図書館や書店で多くの本の中から1冊を選ぶとき、タイトルや著者で選ぶことも多いと思いますが、その選択に大きく影響しているのは本のデザインではないでしょうか。今回紹介するのは、本のデザイン「装幀」について装幀家自身が語ったものです。

装幀には、紙の素材、文字の書体、図像(絵)、色という4つの要素があり、これらを構成することで1冊の装幀が完成します。書店の棚に置かれたときに見られる角度を意識する、「テレビのブラウン管にはぜったいに出てこない色」を使うなど、装幀家が装幀に込めている様々な思いが述べられています。著者が実際に装幀した本も紹介されているので、当館で所蔵している現物を確認してみるのもおすすめです。

装幀の究極の役割とは、商品の本を手に取ってもらえるように人の目をとめさせる、つまり読者を誘惑するということだと著者は考えており、そして理想の装幀表現は、テキストをイラストレーションとして見せるのではなく、テキストの持つ構造(テキストを読んだ後に残る触覚的・視覚的な何か)に拮抗し、「その本の姿に、静まりみたいなものを生み出し」、「人が、底知れない静かな沼みたいなものに出会うように本と出会」えることだそうです。私たち読者と本との出会いにはこのような繊細な演出があったのです。

次から本を選ぶときには、ぜひ装幀も意識してみてください。無意識に受け取っていた本からのメッセージの中に、これまでとは違うものが見えてくるかもしれません。

ところで最近話題の電子書籍では、装幀はどうなるのでしょうか。「紙の素材」という要素はなくなりますが、電子書籍には紙にはない新しい要素があるはずです。メディアが変わることで装幀にどのような変化が現れるのか、そして読者と本との出会いがどう変わるのかも気になるところです。

2010年6月4日(谷)