2007.09.28

おすすめ資料 第44回日本の植民地化を阻んだものとは

中岡哲郎著『日本近代技術の形成 : 〈伝統〉と〈近代〉のダイナミクス』(朝日選書809)朝日新聞社 [N502.1-17]

1968年から76年まで本学で教鞭をとっていた中岡哲郎氏が、エル・コレヒオ・デ・メヒコでの講義をその内容とする、この著作の出発点となった最初の三章を書き上げてから、実に22年の歳月を経て上梓の運びとなった、まさに労作というべき書物です。

第四章から第七章では織物、紡績、製鉄、造船の4つの事例が、具体的に、生き生きと記述され、従来とは異なった日本近代技術の形成像が鮮やかに浮かびあがってきて、「遅れた工業化が持たざるを得ない混血型の構造は歪んでいるのではなく<伝統>と<近代>のダイナミクスが生み出す『後発工業化』の独自性なのだ」という、この書物の主要論点が提起されます。

最後の第八章は著者が「はじめに」で書いているように「日本はなぜ『低開発の開発』の道を免れたか」という問いに答える形で、幕末以来の発展と技術形成がまとめられています。

「近代化の中でなぜ日本は植民地化しなかったか」「この時生じた問題点と、その解決法を見ていると、現在が浮び上る。グローバル化という波に、私たちはこれだけの気概を持って向き合っているか。解決法は何か。考えたい。」という中村桂子氏の書評の言葉(毎日新聞2006年11月26日)を重く受け止めながら、じっくり取り組んでみたい一冊です。

2007年9月28日(牛)