2021年3月30日

2020年度学位記授与式・卒業式を挙行しました

3月25日(木曜)、2020年度学位記授与式・卒業式を執り行い、学部生377人、大学院生43人が卒業・修了しました。

新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から、式典は昨年同様、各学科ごとに教室で行いました。

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今年は遠方から参加の学生にも配慮し、対面とLIVE配信と併用での開催となり、恒例となっていた学位記授与式での卒業生一人一人の点呼は今年も自粛。

各学科代表者のみへ三木記念会館で対面で授与が行われました。

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2020年度卒業式神戸市長祝辞

途中で神戸市長からのお祝いメッセージも流れ、コロナ禍ながらも充実した式典となりました。

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ここに、指学長の式辞を紹介します。


2020年度卒業式 式辞

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 みなさん、卒業・修了おめでとうございます。

 通常であれば、大ホールで学位記の授与を行い、お祝いを申し上げるのですが、残念ながら、昨年に引き続き今年も、新型コロナウィルスのためにこのような形での祝辞となってしまいました。

 ただ、録画を再生するだけであった昨年の挨拶とは違い、今年は、少人数ではありますが、こうして対面で、そして別室におられる皆さんや大学から離れた場所でご覧の皆さんに同時配信でお祝いを述べることができます。

 こうしたことが可能になったのは、コロナウィルス対策の一環であるのは、皆さんも承知のことだと思います。本学規模の大学で、卒業式を全学的に、そして保護者の皆さんにも同時配信するということは、一年前には想像もしなかったことです。コロナという危機が新しい状況を生み出したといえるでしょう。

 危機が社会を大きく変えるということは、歴史上たくさんの例があります。この一年間、よく耳にした話かと思いますが、中世末のペスト流行はヨーロッパの社会を大きく変えました。農奴と領主といった身分関係がほころび、世界観が揺るぎ、近代に向けての歩みの一歩となりました。戦争という危機も、その悲惨な経験が平和の仕組みを構築する動きにつながっていきました。現在の国連も、そうした歴史の経験に学んだ試みのひとつです。

 もっと身近な例を挙げてみましょう。神戸市外大の誇れる点のひとつとして、ボランティア活動に熱心な学生の多いことがあげられます。このボランティアが日本に定着するきっかけになったのが、阪神淡路大震災でした。1995年は日本の災害ボランティア元年とも言われます。危機が新しい行動様式を定着させたわけです。

 神戸の震災といえば、先日、私の研究室を整理していたところ、皆さんの先輩が震災の際に提出してくれたレポートが出てきました。地震のために学年末の試験が出来なくなったための代替処置でした。多くの学生が地震直後の困難な状況の下で、身の回りのものすら不足する中で作成してくれたものです。二部で学んでいた神戸市の職員の方は、自らも被災しながら、被災者の支援に日々忙殺され、辛い状況の中で、レポートを提出してくれています。

 今も連絡を取っているまた別の卒業生、その学生も住まいが崩れるなどかなりの被害に遭ったのですが、レポートが見つかったよ、と伝えますと、レポートに書いた内容を覚えていました。26年経っても、深く心に残っているのがわかりました。

 インターネットやメールはもちろん、パソコンすら普及する前でしたから、大部分が手書きで、郵送で届けられたものです。当時、毎日、郵便受けにレポートの入った封筒が入りきらず、溢れかえったのを思い出します。つまり、郵便局の人々は、あの厳しい状況の中でも懸命に日常を維持しようと奮闘されていたわけです。震災時のレポートを保存していたのは、そうした幾重もの努力の賜物と感じたからで、処分するのは忍びなかったからです。

 今、インターネット普及以前と言いましたが、じつは、あの震災の際、この外大を拠点にして、神戸の災害の様子をインターネットで全世界に動画で発信しています。いまでは当たり前のことですが、インターネットがニュース動画の全世界への配信に威力を発揮することを実証した、世界でも最も初期の試みです。これも危機的状況が新しい技術と活用法を生み出した例といえますし、その出発点が神戸市外大であったことは誇っていいと思います。

 こうしたことは現在のコロナ禍に重なってきます。非常時だから、危機だから、といってあきらめたり、判断停止に陥ってしまうのではなく、困難な状況だからこそ、この状況、この条件で何が出来るのかを考える。マニュアルにないことを考える、つまり既存の枠組みを超えて考え、行動することが大切です。

 マニュアルで対応できるのは「想定内」の事柄だけです。しかし、それでは「新しい」ことは生まれません。マニュアルに記されていない状況こそが新しいことを生み出します。社会を変えていきます。歴史は決してくり返しません。マニュアル通りにしか対応できないなら、前には進めませんし、再び困難な状況に出会ったとき、立ちすくんでしまうだけでしょう。

 まして初めから「これは無理」と想定から外してしまうことは避けなくてはなりません。初めから外しておいて「想定外だから」というのは課題から目をそらしているだけです。

 目の前にある条件、しかも未知の事柄を前に何が出来るか。前向きに、工夫し、考える。自分の視点だけではなく、多角的に思いを凝らし、構想する。それが、このコロナ禍の中でわたしたちが得た知恵であり、普遍的な価値となるでしょう。

「前向き」というのは、楽観的ということではありません。厳しい状況の中でも、何とか少しでも先に進もうという気構えのことです。世界が歴史的な苦境に置かれている今、その世界に踏み出そうとしている皆さんが、大学で修得された学問の力と広い視野から発想する力をもって、「前向きに」新しい社会、新しい世界を生み出すことに貢献してくれることを願っています。皆さんにはそれが可能だと信じています。これからの皆さんの活躍への期待をもって私の式辞としたいと思います。

卒業おめでとうございます。

2021年3月25日

学長  指 昭博