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2022年3月23日

ロシア学科で学ぶ在校生の皆さん、卒業生そして新入生の皆さん

 神戸市外国語大学ロシア学科で学ぶ皆さん、学ばれた皆さんにとって、「ロシア」は言語・文学・文化・歴史・留学・友人・教員といった多様な場面に結びついて、皆さんの人生の一部となっていることと思います。また、多くの卒業生の方々が隣国ロシアをパートナーとして友好な関係を築き、日露の架け橋となって活躍してこられました。ロシアの文学文化芸術を心の糧として、ロシアをはじめ世界各国の友人を得て、日々の暮らしを豊かにされてきた人も大勢おられるでしょう。だからこそ、昨今のロシア政府によるウクライナ侵攻を他人事としてではなく、自分とロシアとの関係の断絶と感じ、国家権力に対する失望と、ウクライナで進行中の惨事にいたたまれぬ思いをし、身を切られるような辛い思いをしている方々が多くおられることと思います。

 事実、ウクライナで進行中の悲惨な事態は世界中の人々に大きな怒りと深い悲しみをもたらし、人々の憤りと焦燥感は日増しに強まっています。世界がロシア対ウクライナ、親ロシア対反ロシア、さらには敵か味方か、黒か白かといった二項対立で捉えられるかのような、安易な単純化が見られます。さらに、「ロシア」に関連するすべてが、一方的に否定されたり、非難の的にされるといった極端かつ理不尽な言動も日本社会に見受けられます。しかし、ロシアとウクライナを含むスラヴ社会について学んだ私たちは、事態がそのような単純なものではないことを知っています。同一家族内であっても国籍がロシアとウクライナに分かれている人々もあれば、ウクライナに住むロシア人、ロシアに住むウクライナ人が大勢いることも周知の事実です。こうした現実を見れば、自己のアイデンティティ・家族・友人を両国に持つ人々から発せられる「戦争反対」の声がどれだけ切実なものであるか、「二項対立」による分断の思考では到底理解されないでしょう...。あらゆる人が情報発信者になりうる今日、世界で様々な角度から語られる経験と言説を自らの良識と教養に照らして注意深く観察し、冷静に判断して、理性的に行動することの大切さを改めて痛感させられます。

 神戸市外国語大学の前身である神戸市立外事専門学校は、第二次世界大戦後間もない1946年に設立され、英語・ロシア語・中国語の三科を柱として隣国の言語教育を開始しています。ところが、話し合いを諦め、武力行使に突き進んだ結果、多くの尊い人命が失われ、生き残った人々の心をも傷つけるという負の歴史が今再び繰り返されようとしています。戦後長い時間をかけて培われてきた民主主義の価値観そのものが、危機に瀕している今だからこそ、隣国ロシアの言語や文化・社会を学び、相互理解・対話と協働の道を世界の人々とともに模索していくことがこれまで以上に求められているのです。言葉が武器となって憎しみと分断を増長させようとする流れの中でこそ、私たちは人々を結ぶ言葉の力を信じ、多様な背景と考え方を持つ人々との対話を継続し、「国家」を超えた人類普遍の価値観を共に作り上げていく努力を諦めてはなりません。

 在校生および新入生の皆さんも、たとえ今回のような紛争や悲劇が起こったとしても、千年以上の歴史と文化を育んできたロシア語を学習することを無益なこと、恥ずべきことと思わないでください。そして国内外にロシアに対する不公正な評価や悪意にもとづく風評被害が起こったとしても、毅然とした態度で前を向いて学習を続けてください。これまで同様に各人が目標を立てて、それに向かって努力すれば、必ず語学の知識以上のものが得られるはずですし、そうして得られた価値は永遠に揺らぐことはありません。私たち教員一同もこれまで以上に教育と研究分野において誠心誠意尽力してまいります。卒業生の皆さんも、皆さんが学んだことに誇りを持ってください。そして仕事や人的交流を通じてこれまで同様にロシアを知ることに情熱を持って、相互理解を深めるように努めてくださることを願ってやみません。

神戸市外国語大学ロシア学科教員
金子百合子、北見諭、清水俊行、高橋一彦、エレナ・バイビコワ、藤原潤子

関連リンク

日本ロシア文学会からの「ロシア軍のウクライナ侵攻への抗議声明」