お知らせ

2023年3月24日

2022年度学位記授与式・卒業式を挙行しました

3月24日(金曜)、2022年度学位記授与式・卒業式を執り行い、学部生401人、大学院生42人が卒業・修了しました。

3年振りに、全卒業・修了生が一堂に会する大ホールでの開催となりました。

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ここに、田中学長の式辞を紹介します。

学長式辞

卒業生の皆さん、本日はご卒業おめでとうございます。また、別室にて式典にご列席なさっておられる保護者の皆様におかれましては、ご卒業生の晴れ姿をご覧になり肩の荷を降ろしたお気持ちになられていることと拝察いたしております。これまでのご卒業生に対するご支援に敬意を表しますとともに、この場をお借りして祝意を表したいと思います。

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3年前の2020年初頭より新型コロナウイルス感染症による世界的なパンデミックが勃発し、皆さんの大学生活は激変しました。それから3年間のコロナ禍の間、海外での留学を断念したり、終わりの見えないオンラインの生活で思い描いていた友人との交流ができなかったり、対面での対話のない就職活動で戸惑いを感じたり、といったように非常に辛い思いをされた方も多かったのではないかと思います。
皆さんの大学生活は、まさにコロナ禍に対する対応に明け暮れた学生生活であったと言っても過言ではないかもしれません。しかし、3年間のコロナ禍での経験は、私たちに多くの「学び」や「気づき」も与えてくれました。私たちは、互いに離れた場所で、どのように勉強や課外活動を進めていけば良いかについて模索し、様々な工夫を行ってきました。皆さんは、コロナ禍のそれぞれの局面で、新たに普及したオンラインツールやSNSを駆使しながら柔軟にコロナ禍に対応してきました。そこで経験した学びや気づきは、間違いなくこれからの皆さんの歩みにとっての大きく貴重な財産となっています。

一方で、3年間のコロナ禍は、日本という社会の特徴も浮き彫りにしてきたように思います。良く指摘されるように、日本人は「ソト」から帰って「ウチ」である自宅に入るときに、靴を脱いで入るということに象徴されるように、「ウチ」と「ソト」を無意識的に区別する傾向が強いと言われています。
企業で働く人々は、しばしば「ウチの会社では・・」という表現を使って自分の所属する企業のことを説明しようとします。皆さんの中には、「ウチの大学は・・」というフレーズを使って本学のことを話題にしたことがある方もおられるかもしれません。コロナ禍の特に初期の段階では、感染抑止のために、日常的に接触のある――たとえば家族や同じ職場で働く同僚――集団以外との接触は極力回避されましたので、「ウチ」と「ソト」の区別は、コロナ禍の時期を通じて増幅されたように感じられます。

心理学では、内集団バイアスの存在がしばしば指摘されます。それによると、集団を自分が属すると考える「ウチ」と属さない「ソト」に分けたときに、人間には「ウチ」のメンバーに対しては好意的な評価をする一方で、「ソト」のメンバーに対しては否定的な評価を行う認知上のバイアスが生じることが知られています。
スポーツの国際イベントで、多くの人々は自国のチームや選手を応援する傾向を持ちますが、これはこの種のバイアスの一例だと思います。こうしたバイアスが増幅されるときには、一方で「身内びいき」が起こると同時に、「ソト」のメンバーに対する侮蔑的な態度や「ソト」のメンバーを排除しようとする行動が生じてしまうことがあります。コロナ禍で生じた様々な社会現象――たとえば「マスク警察」――は、あるいはこうした認知バイアスの増幅がもたらしたものであったのかもしれません。

この種の認知上のバイアスは様々な要因によって生じます。集団への帰属意識の存在は「ウチ」のメンバーに対する好意的評価を生むでしょう。より興味深いのは、人間は「ウチ」のメンバーはよく知っており、「ソト」のメンバーはあまり知らないという、それだけの理由で「ウチ」のメンバーを高く評価する傾向がある点です。
実際、行動経済学の分野では、人間は自分が思い出しやすい情報を過剰に評価してしまう生物であることが、「利用可能性ヒューリスティックス」といういかめしい名称と共に知られています。こうした傾向は、ともすれば身内を高く評価し身内だけを見て物事を判断しようとする弊害を生むかもしれません。この弊害は、『荘子』を典拠とする有名な故事「井の中の蛙、大海を知らず」の状況に陥ってしまうことを意味しています。

こうした人間の種々の認知上のバイアスから生じる弊害を避けるためには、「ソト」の集団をよく知る必要があります。しかし、「ソト」の集団をよく知るのは、これまでお話ししてきたような人間固有の認知上のバイアスがあるために、非常に難しいものです。
私たちは、「ソト」の集団を知るために、常日頃からアンテナを張り巡らせ、「ソト」の集団――つまり自分が属していないと考える集団――に対する情報を収集する努力を意識的に行う必要があります。そうした努力を通じて、初めて「井の中の蛙、大海を知らず」に象徴される弊害を避けることができるのだと言えるでしょう。皆さんは、これから社会に出て様々な活動を行うことになりますが、自分が属さない「ソト」の集団に常に目を向け、「ウチ」の集団の良い点を伸ばし、悪い点を発見して是正することを是非心がけていただきたいと思います。

皆さんは、本学で様々な勉学を行ってきました。勉学を通じて身につけた知見をベースにすれば、「ソト」の集団を理解し、より良い「ウチ」を作り上げることができるものと信じております。皆さんが、そうした地道な努力を通じて、次世代の世界に通用する社会を作り上げていただくことを心よりお祈り申し上げて、私の挨拶とさせていただきます。ご静聴、ありがとうございました。

2023年3月24日

学長 田中悟